第六章 大宮宿

4.不穏

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不穏  3年前の2月。そいつらは現れた。絹商人を語るそいつらは10代か20代の若者で、商人と言いながらチンピラにしか見えなかった。 夜になると大勢で往来を闊歩して、それぞれ分かれて飲み屋や女郎屋で豪遊していった。宿場の人は不審に思ったが、彼らはとにかく羽振りが良いので始めは苦情やトラブルになることはなかった。しかし、次第に横暴な振る舞いをするようになり、酔客と喧嘩をしたり、女郎の取り合いをしたりするので宿場の人も煙たがるようになっていった。 そんな頃氷川神社の池に死体が浮いた。死体は宿場の北の外れの四恩寺という寺の所化(しょけ、修行中の僧侶)だった。所化は袈裟懸けに斬られて心臓を刺されていた。犯人は不明だった。宿場では絹商人の連中の仕業ではないか?という噂が立ったが、誰もが連中を恐れて口に出さなかった。 しかし、この頃から連中が絹商人などではなく、犯罪集団かやくざだろうと思うようになって、宿場は不穏な雰囲気に包まれていった。